某学習塾で小学生対象に行われる模試の試験監督アルバイトをしたときの話。
大学の友達がその塾の受付だかのアルバイトをしていて、試験監督のバイトもあるよと教えてくれた。
スーツさえ持っていれば応募でき、難しいこともなさそうだった。
バイト先のファミレスが潰れてしまったので単発のバイトにはうってつけだと思った。
何から応募したのかは忘れてしまったが、事前の登録会などは無く当日にぶっつけだ。時給は1000円程度だったと思う。
自宅から近めの教室に模試当日赴いた。
到着すると、同じく試験監督のバイトに来ている若者が10人くらいいた。皆わたしと同じ大学生だろう。
塾の講師だと思われる人物から試験監督の仕事の流れや注意点を簡単に聞く。
仕事の内容はごく単純で、問題用紙を配り、解答時間を計り、試験中の巡視をしつつ小学生から質問があれば対応する。
その他、試験監督は座ったりせず立ったままで対応することや、集めた回答は塾講師が回収に来るので渡すことなどが説明された。
試験監督は小さい教室に一人ずつあてがわれる。
わたしが担当したのは小学校3年生か4年生で、ただのプー大学生のわたしのことを「せんせい」と呼んでくれてものすごく可愛かった。
この歳でこんなに可愛いなんて知らなくて驚いた。
社会科の模試でシラスの漁獲量の問題があり、小学生から「シラスってなんですか?」と質問があった。
まさかシラスとは何かと尋ねられるとは想像もしておらず動揺してしまった。
わたしは「あ、小さい魚の大群みたいな...うん小さい魚だね」としか言えず、自分の無能さに悔しい思いをした。
あのときの小学生ももう大学入学くらいになるだろうか。
シラスの説明がうまくできずにごめんねと言いたい。
全部で4教科ほどの模試が全て終わり、試験監督はまた一堂に集められる。
最後にタイムシートのような用紙を記入し、給金をもらって終わるはずだった。
試験が終われば当然試験監督の仕事も終了だ。
だが、集められた即席試験監督たちに向かって、ひとりの塾講師がかなり温度感高めでキレ始めたのだった。
今でも風貌はよく覚えていて、頭頂部は禿げているのだが頭頂部以外は天パで、メガネの男だった。
ハゲなので判断が難しいが、意外と若そうに見える。
どうやら一部の者の試験中の勤務態度が気に入らなかったようだ。
ハゲの主張はあまり覚えていないが、立ったままで、と説明を受けたのに座っていた者もいたらしい。
そういった奴がいて気分を害したのは分かる。
だが、全員に向かって叱責するのはお門違いだ。
ほとんどの者は問題なく対応していると思うし、該当者だけにあとから注意するくらいの対応が適切なはずだ。
しかしながら無力な試験監督たちは全員黙ってハゲの怒りの声を聞くしかなかった。
わたしはキレまくるハゲを見ながら「こいつは自分の日々のストレスを発散するために圧倒的に立場が弱い若者をサンドバッグにしているんだなあ」と感じていた。
天国のような女子大とは違い、社会人になるとこんな人物と遭遇することもあるのだ。
これから社会に出る若者に絶望感までをも与えたハゲの罪は重い。
挙げ句の果てに「君たちにはお金を払いたくない!!!」と叫んでいたが、給料を払うのはお前じゃない。
サンドバッグになっている時間は10分程度だったろうか。
何も悪いことをしていないのに時給も発生しない10分間をハゲに捧げた。
やっとストレス解消タイムは終わり、無事に帰宅することができた。
当然ながらそのバイトはその後二度とやっていない。