「彼氏よりボディーガードがほしい。」
恵比寿の「米福」という美味しいお米が食べられるお店で食事をしていた時の親友のことばだ。
たしかに、彼氏かボディーガードのどちらかを選べるとしたら断然ボディーガードだと、激しく同意した。
わたしは外が暗くなってからはできる限り一人で外を歩きたくない。
同じ時間の同じ車両には乗らないようにしているし、イヤホンなんてもってのほかだ。
最寄り駅から自宅までの5分弱の間は周囲に男がいないか常に確認し、後ろにいたら必ず追い越させる。
なので男はモタモタ歩いていないでさっさと追い越して行って欲しい。
追い越させる為に立ち止まって待つと、なぜか方向転換して去っていくおっさんも存在する。
後ろにいても怖くないのは子連れか、ケンタッキーの袋を持っている男だけだ。
ケンタッキーを持ちながら悪さをするはずはないので、その場合は妙な安心感がある。
ちなみに帰り道におけるいちばん安心な布陣は前方に男性(距離は充分にとる)、後方に女性で自分が間に挟まれるフォーメーションだ。
1人ではないというところも安心だし、男性も自分が後ろを歩くよりも気が楽だろう。
考えすぎかもしれないし自分がただの萎びたアラサーだとしても、毎日ニュースを見ていると危ない目に絶対合わないとは思えない。
用心するに越したことはない。
妹については自分より更に心配でたまらない。平日はなるべく最寄り駅から一緒に帰ろうとLINEをするけど、ほとんどの場合置いていかれる。
妹はかわいいから、ゴリラの顔真似をして周りを威嚇して歩けと言っても無視される。
わたしの心配はほぼ杞憂だが、現実として混雑した駅でわざと突進してぶつかってくる男、電車の座席で寝たふりをして寄りかかってくる男に遭遇することは珍しくない。
考えてみると、ただ生きているだけなのに何かに怯える毎日を送っていることになる。
なんなんだこの世界は。
なので、常にわたしの斜め後ろについていてくれるボディーガードがいたら、安心感は彼氏より圧倒的に勝る。
ボディーガードはわたしのボディーガードが仕事なので、会社にも遊びにも行かない。
いつも付いていてくれれば、ちちめがけてぶつかってくるおっさんも現れないだろうし、夜中にコンビニにも行ける。
ボディーガードはクリスヘムズワースみたいな長身のマッチョがいい。
だがわたしが現世でクリスヘムズワース似のボディーガードを手に入れるには、大金持ちの彼氏を見つけ結婚し、わたしのために雇ってもらうしか方法がない。
結局わたしにとっては、彼氏を作ることが安心への唯一かつ望み薄い道なのだった。